「肉まん嫌い」に学ぶトラウマ克服法

みなさん、こんにちは。

心理カウンセリング空の関口です。

いきなりですが、あなたに質問です。

あなたが嫌いなもの・苦手なことに、どんな物事がありますか?

我が家の12歳(小学6年)の次男が大嫌いなものが「肉まん」です。我が家は4人家族ですが、「肉まん」が嫌いなのは次男だけです。

では、家族で同じものを食べているのに、どうして次男だけが「肉まん」が嫌いになったのでしょうか?

それは次男にとって「肉まん」がトラウマになっているからです。

今日は次男の肉まん嫌いの話をベースにして、人間の「記憶」と「トラウマ」について書いていきます。

目次
オンラインカウンセリング

記憶の2つの特徴

トラウマのお話をする前に、まず記憶の2つの特徴について解説します。

残る記憶と消える記憶

最初に以下4つの質問をさせてください。

【質問1】
あなたは3日前の晩ご飯で、なにを食べたか覚えていますか?

【質問2】
あなたが受験勉強の時に必死に覚えた、歴史の年号や英単語を今でも覚えていますか?

【質問3】
2011年3月11日東日本大震災が発生したとき、あなたは何をしていたか覚えていますか?

【質問4】
2001年9月11日アメリカ同時多発テロが発生したとき、あなたは何をしていたか覚えていますか?

いかがでしたでしょうか?

おそらく、質問1と質問2のことは忘れ、質問3と質問4のことは明確に記憶している方が多いのではないでしょうか?

では、なぜ人は質問3と質問4のことを明確に覚えているのでしょうか?それは、強い不安や恐怖を感じたときの状況は、自然と記憶に残るからです。

記憶の特徴1:強い不安や恐怖を感じたときの状況は記憶に残る

記憶の歪曲化

あなたの頭の中には、今まで歩んできた人生の中で起きた出来事の記憶が詰まっていると思います。しかし、その記憶は本当に正しい記憶なのでしょうか?


イギリスの心理学者「バーネット」は「記憶の再生」という実験をしました。

この実験では、実験参加者に物語を記憶させ、その後、一定期間の保持期間(時間)をあけたあと、記憶した物語を被験者の記憶をたどって再生させるものでした。

その結果、わかったことが2つありました。

ひとつが、保持時間が長くなるにつれて、記憶した物語の内容は減少すること。

もうひとつが、記憶した物語の再生内容には、以下6つの特徴が現れること。

  1. 省略
    物語の細部や、実験者にとってなじみの薄い事がらなどは省略される。
  2. 合理化
    つじつまのない事柄は情報を加えて合理的な説明がされる
  3. 強調
    物語のある部分が強調されて、中心的な位置を占めるようになる
  4. 細部の変化
    なじみの薄い名前や言葉はなじみのあるものに変えられる
  5. 順序の入れ替え
    出来事の順序がつじつまが合うように切り替えられる
  6. 実験参加者の態度
    物語を記憶したときの実験参加者の態度や情動が、その後の記憶の再生に影響する

バーレットは、記憶の再生による物語の内容の変化は、人間スキーマ(過去の経験を構造化した認知的枠組み)の働きによるものだと考えた。

つまり、人間はスキーマに基づいて、新しい事柄を認識したり記憶したりするのであり、もしスキーマと矛盾するような事柄に出会うと、それを歪曲することによって、スキーマとの整合性を保とうとする。物語の再生内容に変化が生じるのも、このようなスキーマの働きを反映しているのだと解釈した。

※参考文献 有斐閣 心理学


この実験でわかることは、実験者のそのときの状況により、記憶は歪曲されるということです。

記憶の特徴2:記憶は歪曲される。

トラウマの3つの事例

記憶の2つの特徴を理解したうえで、次に「トラウマ」をテーマにして以下3つの事例をご紹介します。

「肉まん」のトラウマ

冒頭でも書きましたが、次男(現在12歳)は「肉まん」が大嫌いです。

しかし、実は次男は4歳になるまで「肉まん」が大好物でした。

次男が4歳の頃、私は毎月大阪へ出張に行っていました。大阪出張でのお土産は、いつも大阪で有名な「肉まん」でした。

次男は、その肉まんが大好きで、出張で買ってくるたびに「美味しい」と言って、大きな肉まんを1つ食べきっていました。

しかし、あるとき事件がおきました。

私が大阪出張から帰った翌日に、次男は「ノロウイルス」にかかりました。

当時、次男が通っていた保育園で「ノロウイルス」が流行しており、次男も感染してしまい、1週間ほど嘔吐下痢吐が続き、とても「辛い」思いをしました。

その後、私は再び大阪へ出張にいき、お土産にいつもの「肉まん」を買って帰ってきました。しかし、次男は喜ぶどころか「肉まんなんて大嫌い」と言うようになりました。

どうやら、次男の記憶の中では「肉まんを食べた」ことと「ノロウイルスに感染して辛い思いをした」ことが紐付いてしまったようです。

それ以降、次男は12歳になった現在も「肉まん」嫌いが続いています。

たぬきのトラウマ

いま里山が荒れ「タヌキ」や「ハクビシン」などの小動物が山から降りて、農作物を荒らしてしまう被害が相次いでいます。

タヌキに農作物が食べられてしまうと農家にとっては死活問題につながります。タヌキから農作物を守るために畑の周りに電柵(電気が流れるロープ)を張り巡らせることがあります。

電柵は、太さ2mm程の電線が入ったワイヤーネットを、地表から1メートルぐらいの高さまで張り巡らせます。

タヌキはおとなしいイメージがあると思いますが、2mmぐらいのワイヤーネットであれば、かみ切ることも体当たりで突破することもできるし、1mの高さは軽く跳び越える身体能力を持っています。

タヌキが本気を出せば、電柵は簡単に突破することができます。しかし、タヌキはとても慎重で臆病な夜行性動物です。

タヌキが新しい場所に移動するときは、鼻先で安全を確認しながらソロソロと動く行動特性があります。この行動特性を利用してタヌキの鼻先にあたるように電柵を設置し、畑に侵入しようとしたとき、電気ショックをタヌキに与えます。

電気ショックを受けるとタヌキはそこから逃げ出します。逆に、鼻が電柵に触れたとき、電柵に電気が流れていない(電気ショックを与えられない)と、タヌキは電柵を軽々と跳び越え農作物を食べてしまいます。

だから、電柵を設置するときは、最初の「トラウマ(恐怖)」をいかにしてタヌキに与えられるか?がポイントになります。

R.Iさんのトラウマ

ライフ・カウンセリングを受けたR.Iさんの事例を簡単にご紹介します。

カウンセリングを受けるまで、R.Iさん(50代女性)は「1人になると不安」に駆られてしまう状況でした。

不安になってしまうと、その不安を埋めるために、誰かと付き合ったり、また安定剤で、不安を落ち着かせようとしたりしていました。

よって、ライフ・カウンセリングのテーマは「不安の克服」でした。カウンセリングを進めるうちにR.Iさんはひとつのことに気づきました。

「私の不安は、5歳のときに感じた不安かもしれない・・・」ということに。

お話を聞かせてもらうと、R.Iさんが5歳の頃、お母さんはいつも家にいたそうです。しかし、あるときお母さんが家にいない日があったそうです。

周りが暗くなっても、お母さんが帰ってこなくて、まだ幼い弟と暗い部屋の中で泣きながら不安いっぱいで、お母さんが帰ってくるのを待っていたそうです。

「たぶん、私の不安は5歳の時のトラウマによるものだと思うのです。このトラウマを克服するためには、どうすればいいですか?」とR.Iさんから質問を受けました。

トラウマとは何か?

ここまで「記憶」の2つの特徴と「トラウマ」の3つの事例をご紹介してきました。

あなたには「トラウマ」はありますか?

私にもたくさんの「トラウマ」があります。うつ病がひどくなり、会社に行けなくなった朝のことは、今でも私の記憶に明確に焼きついています。

よく「トラウマ」という言葉を使いますが、あなたはトラウマの語源と意味をご存じですか?

本来、トラウマは「キズ」を意味するギリシャ語でした。

そして、心理学者の『フロイト』が「精神分析入門」において、過去の強い心理的なキズがその後も精神的障害をもたらす意味を表現するのに「トラウマ」という言葉を使用したようです。

「トラウマ」とは、精神的に障害をもたらす心のキズです。

しかし、心にキズがあっても、当時の事を思い出すことがなければ、その後、不安を感じることはありません。

次男の「肉まんが嫌い」なこと、タヌキが電柵を乗り越えられないこと、R.Iさんが不安でいっぱいになってしまうのは、その本人にとって、過去に強い心理的なキズを受けたと同時に、そのときの強い不安や恐怖の状況が記憶として残り、それを思い出すことができるからです。

その意味では、「トラウマとは、その時に感じた不安や恐怖の記憶と心のキズである」とも言えます。

トラウマの克服法

誰もが生きてきたなかで、大きな不安を感じることもあるし、大きな恐怖を感じてきたことがあるものです。だから、誰の記憶にも「トラウマ」は存在しています。

「トラウマ克服」しようとするとき、まず考えなくてはならないのが、そのトラウマを本当に克服する必用があるのか?どうかです。

例えば、次男の「肉まん嫌い」というトラウマは、無理して克服する必用がありません。次男が「肉まんを食べない」という選択をすればいいだけです。

しかし、次男が「肉まんが嫌い」なことで「肉まんの保温器がレジの横に置いてあるコンビニに恐くて入れない」など、過去のトラウマが現実の生活に影響をきたす場合は、そのトラウマを克服する必用があるのかと思います。

トラウマとは、その時に感じた不安や恐怖の記憶と心のキズです。よって、1人ひとりの「トラウマ」は異なるものですので、一概に「こうすれば克服できます」というものはありません。

今回は、私の主観で「トラウマ克服法」を書いてみたいと思います。

そのトラウマ自体をまずは受け入れる

最初は、そのトラウマ自体を、まずは受け入れることです。

トラウマの話しになると、どうしても「トラウマがあるからできない」とか「トラウマがあるから恐い」という論点になってしまいます。

トラウマとは「その時に感じた不安や恐怖の記憶と心のキズ」ですので、トラウマを克服しようとすれば、当然そのときの不安や恐怖を思い出してしまいます。

しかし、この先の文章を読まれる方は、ここだけは理解してください。

「トラウマは、今にあるものではなく、過去の記憶と心のキズであること」を

おそらく、トラウマを感じるときは、過去の状況と今の状況がどことなく一致していて、過去の記憶を思い出しているときです。

例えば、肉まん嫌いの次男が、過去のトラウマを感じるのは、肉まんを目にしたときです。そういうときは、肉まんを恐れるのではなく「私は肉まんが嫌いである」という感情を素直に受け入れてみてください。

どうか、トラウマがあること自体を恐れないでください。

もしかしたら、そのトラウマを作り出している記憶自体が間違っているかも知れないから。

その時の事実を思い出す

もし、トラウマを克服したいと思うのであれば、そのときの記憶を少しずつ思い出してみてください。思い出すときのポイントは事実のみを思いだすことです。

最初にも解説しましたが、記憶には以下2つの特徴があります。

・特徴1:強い不安や恐怖を感じたときの状況が強く記憶される

・特徴2:記憶は歪曲される

この記憶の2つ特徴により「事実」と「不安や恐怖」が歪曲化される可能性があります。

次男が肉まんが嫌いになったときの事実だけを列挙すると下記のとおりです。

  1. 次男は肉まんが大好き。
  2. だから、今回もお土産の肉まんを食べた。
  3. 次の日、ノロウイルスに感染した。
  4. 肉まんが嫌いになった。

事実だけ列挙すると、3番で記憶の歪曲化がおきていることに気づきます。

本来であれば、肉まんを「おいしく」食べたことと、ノロウイルスに感染し「辛い」思いしたことは、まったく関係性がありません。

しかし、記憶の歪曲化により、次男の記憶の中で下記の方程式が成立してしまいました。

 事実       感情      トラウマ(結果)

肉まんを食べた辛い思いをしただから肉まんが嫌いだ!

人間の記憶は正しくありません。もしかしたら、あなたのトラウマの記憶も歪曲化されているかもしれません。

まずは、その時の事実を少しずつでいいので思い出し、紙に書き出してみてください。

もちろん、思い出すことことが苦しいようであれば、無理にする必要はないですよ。

前後の記憶を思い出す

その時の事実を紙に書き出せたら、もしかしたら、そのトラウマとなった前後の記憶も同時に思い出せるかもしれません。

事例で紹介したR.Iさんの場合「お母さんがいなくて不安になった日」の前後の記憶を思い出すことができました。

なぜ、いつも家に居てくれたお母さんが、その日に限って暗くなるまで帰ってこなかったのか?

それは、R.Iさんが小学校に入学するため、お母さんはランドセルを買いに行っていたそうです。ただ、どれを買っていいか迷ってしまい、帰りが遅くなってしまったそうです。

お母さんが帰ってきた後、新しいランドセルに喜んだ記憶も思い出すことができました。

また、お母さんは暗くなるまで帰ってこなかったけれど、季節は冬で日の入りも早い時期。

周りは暗かったけれど、時間的には17時前後だったことを思い出し「暗いなでひとりで不安」というトラウマは、「私のランドセルを買いに行っていて、お母さんが17時前後まで帰ってこなかった」という事実に基づいた記憶に正すことができました。

トラウマを活かしリスクを回避する

なぜ、身体能力があるにも関わらずタヌキは電柵を突破しようとしないのか?

なぜ、強い不安や恐怖を感じたときの状況を強く記憶するのか?

なぜ、トラウマを感じてしまうのか?

それは、危険やリスクから自分の「いのち」を守るためです。言い換えれば、これからも「生き続けられるよう」にするためです。

タヌキが電柵を突破しないのは、リスクを冒さず「他に安全に食べられる場所を探すこと」を本能的に選択するからです。

強い不安や恐怖を感じたときの状況を強く記憶するのは、また似たような状況に陥らないようにリスクを回避するためです。

私自身、うつ病になったときの記憶は今でも明確に覚えています。

その時のことを思い返せば「なんで、あんなことに・・・」という思いが今でもあります。きっと、これからも私にとって消えることのない記憶であり、心のキズであり続けることでしょう。

でも、その記憶と心のキズがあるからこそ、次にそうならないように「私は今何をすべきか?」「今の私にとってなにが大切なのか?」を常に意識するようにしています。

失敗から学び成長ができるように、もしかしたら、人はそのトラウマから学び成長ができるのかも知れません。

自分の能力と成長を信じチャレンジする

トラウマは、今にあるものではなく、過去の記憶と心のキズです。

R.Iさんの「ひとりで不安」というトラウマは、5歳の時に経験した記憶と心のキズです。

確かに、そのときは、ひとりで不安で、とても恐い経験をしたのかも知れません。しかし、それは5歳のときの経験です。

人間は時間と共に、肉体的にも精神的にも成長をしていきます。5歳の時の不安や恐怖は、大人になれば、もう不安ではありませんよね。

インドで人間に飼われている「大きな象」は、逃げ出さないように「小さな杭」でつながれているそうです。

大きい象は小さい杭を抜いて逃げだそうとはしないなぜならば、杭は抜けないものと小象の時に「記憶」しているから。

子象のときに象杭を抜こうとしても抜けなかったため、杭は抜けないものと記憶して、大人になっても杭を抜こうとは思えない。

電柵から逃げ出すタヌキだって、勇気を出して状況を観察すれば、簡単に飛び越えることができる柵なのに、安全をとってリスク回避をする。

もちろん、リスク回避をすることも大事です。

しかし、本来自分が持っている能力を抑えてしまうのは、もったいないこと。

トラウマを経験したときの過去の自分と今の自分を比べたときに、「よし行けそう!」と思えるのであれば、あえてチャレンジすることも、ときには大事だと思います。

それに、トラウマを語るときにもっとも大切なことが、そのときの不安や恐怖を乗り越えてきたから「今を生きていられる」という事実です。

もし、そのときに死んでしまっていたら、トラウマを感じることもできないですよね。

だから、過去のトラウマに怯え後悔して「今を生きる」のではなく、それを乗り越えてきた「今の自分」を大切にして、未来に向かって「今を生きて」ことが、大事なのではないでしょうか。

まとめ

このブログを書くにあたり、12歳になった次男に「肉まん」の話しをしてみました。彼は4歳の時まで、肉まんが大好物であったことが「信じられない」と言っていました。

しかし、「試しに、もう1回肉まんを食べてみたい」と言うのでコンビニで「肉まん」を買いました。

次男は「まじかよ・・・」という感じで食べるのためらっていましたが、「えい」と勇気を出して肉まんにかじりつきました。

そして「うまい・・」とペロリと食べきり「今まで損していた。なんでもっと早く教えてくれなかったの?」と逆ギレされました。

どうやら次男は「肉まん」のトラウマを克服できたようです。きっと、これから再び「肉まん」を楽しめることでしょう。

人間の記憶は歪曲化されます。だから、過去の記憶に囚われ、今を生きるのではなく、時には記憶を疑うことも大事だと思います。

また、生きていると、不安なこと、恐いこと、悲しいこと、たくさんの出来事が起こります。そして、また、心のキズが増えてしまうかもしれません。たくさん、落ち込んでしまうかもしれません。

でも、心のキズが増えても大丈夫です。心にキズが増えるのは、それだけあなたの心が「強く生き続けたい」と願っているから。きっと、心はそうやって強く成長をしていくものだと私は思います。

ここまで、長文をお読みいただきありがとうございました。

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