大正時代のお悩み相談 ~なぜ人間は悩むのか?~

みなさん、こんにちは。

心理カウンセリング空の関口です。

心理カウンセリングでは、みなさんの「お悩み事」を聞く機会が多いものです。

人間1人ひとりの個性が違うように、「悩み事」も1人ひとりが違うもの。

もちろん、私自身もみなさんと同じようにたくさんの「悩み事」を抱えています。

では、人はなぜ「悩み事」を抱えるのでしょうか?

最近「大正時代の身の上相談」という本を読みました。

大正時代の人々も平成時代の私たちと同じようなことに「悩み事」を抱えていたようです。

今日は「大正時代の身の上相談」を参考にしながら、人が「悩み事」を抱える理由について書いていきたいと思います。

目次
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大正時代とは

1912年から1926年まで続いた大正時代。

大正時代の時代背景は以下のとおり。

1914年(大正3年)に第1次世界大戦が勃発し、日本は武器の生産拠点として貿易を加速させ好景気となったが、1918年(大正7年)に戦争が終結すると過剰な設備投資と在庫の対流が原因となり反動不況が発生し景気が悪化した。

大正12年(1923年)には関東大震災が発生した。

この大災害に東京は大きな損害を受けた。しかし、その後東京は下水道整備やラジオ放送が本格的に始まるなど、近代都市の復興を遂げ、「円タク」などの自動車も登場する。

都市部では新たに登場した中産階級を中心に洋食が広まり、カフェレストランが成長し、飲食店のあり方に変革をもたらした。カレーライス・とんかつ・コロッケは大正の3大洋食とも呼ばれた。

大都市の発達や経済の拡大に伴い、都市文化、大衆文化が花開き、大正モダンと呼ばれる華やかな時代を迎えた。

女性の就労も増え、それまでの女工などに変わって、女子事務員や電話交換手など「職業婦人」と呼ばれる層が現れ、デパート店員、バスガール、カフェの女給、映画女優といった新しい職業も人気となった。

Wikipedia 「大正時代」より引用

大正時代は、第1次世界大戦や関東大震災など、社会的不安が大きかった時代。

でも、その社会的不安の反面に近代化や西洋文化が花開き人々はこれからの新しい文化の発展に期待していた様子が感じ取れます。

大正時代の人の悩み

現代から約105年前の大正時代。

車や鉄道・飛行機などの交通網もなく、まだインターネットやSNSという概念も存在しない時代。

その頃の人々は、いったいどんなことを思い何を悩んでいたのでしょうか?

『大正時代の身の上相談』より、当時の新聞の「身の上相談コーナー」に掲載された「お悩み」を何点かご紹介します。

私は、幼少時代から至って記憶力が鈍く、思考力も足りないので数学はいつも成績が良くありません。

近頃、冷水浴を初めて見ましたが、いっこうに効き目も現れません。

今日ある人から、親指が短いものや、耳や頭の小さいものは成功しないと言われたので、せっかくの努力の決心も鈍くなってしまいました。

こんなことでは前途が案じられてなりません。

もっと確かな精神になり、記憶力や思考が増すようになるには、どうしたら良いでしょうか?

(大正4年(1915年))(※1)


私は21歳の女です。

この頃、あまりに肥満し過ぎてきましたので実に赤面の至りだと思います。

自然と人様の前に出るのも嫌になってまいりました。

そして、自分ながらの容貌の醜いのを夜昼悲しみ通しております。

これまではよく駆けっこなどいたしましたが、太ったためでしょうか、思うように走れないのです。

しかし、身体には別に異常もございません。

よく、痩せる薬の広告が出ていますが、あれは果たしていかがなものでございましょうか?

(大正6年(1917年))(※1)


私は24歳の青年で、月給26円で郵便局の電信事務を取り扱っています。

このほど家内をもらいましたが、田舎の事ですから少し余裕はあります。

が、どうも今の仕事に興味が持てません。

思い切って辞め、新聞記者になろうと思います。

生意気ですが、生活の保障は得られてもそれだけでは満足できないのです。

ひとりの人間として、自分をより高く育てていきたいと思います。

それなら別に記者でなくてもとおっしゃるでしょう、郵便局にいても勉強出来ない事はなかろうと思いになりますでしょうが、多忙な現在の務めはそうした時間を与えてくれないのです。

私の希望の方面に行く良い手蔓はございませんか。

不躾ながら記者様のご意見をお伺いします。

(大正6年(1917年))(※1)


私は16歳です。

可愛がられすぎて育ったためでしょうか、どうも気が弱くて非常に臆病者です。

青年にありがちな神経衰弱にかかり、日々も安泰に暮らしたことがありません。

毎日のように頭痛や肩こりに襲われ、顔色まで青くなって体重も増加せず心配でたまりません。

友人が静座法を進めてくれましたが、私にはできませんでした。

直接、静座法なり腹式呼吸法なりを教えてくださる先生はいらっしゃいませんか?

なお、催眠療法とやらをやる先生や他に良い療法もありましたら教えていただきたくお願いいたします。

(大正6年(1917年))(※1)


22歳の人妻です。

私は夫が大嫌いなタバコがなぜか大好きなのです。

夫が嫌うのを妻が好むのは良くないので、禁煙しようと決心しますがどうしてもできず、タバコのために円満な家庭が波乱を起こすこともあります。

なんとか、禁煙できる薬や工夫はありませんか?(大正9年(1920年)(※1)

※1『大正時代の身の上相談』 カタログハウス著 より引用

  • 記憶力も思考も弱い
  • ダイエットをしたい
  • 今の仕事がつまらないから転職したい
  • 瞑想して精神を鍛えたい
  • 禁煙をしたい

なんだか、105年前の大正時代の人々も、現代の私たちと同じようなことに悩んでいると思いませんか?

『大正時代の身の上相談』には、「恋愛」・「夫婦関係」・「子どもの教育」・「仕事」・「生き方」など、当時の人々の様々な「お悩み」が紹介されています。

交通網が発達していなくてもSNSで多くの人とつながっていなくても、大正時代の人々は現代の私たちと同じようなことに悩んでいました。

「文明文化が異なっていても、人は同じようなことに悩みを抱える」

これはなぜでしょうか?

アドラー心理学の「ライフ・タスク(人生の課題)」とは

「文明文化が異なっていても、人は同じようなことに悩みを抱える」のはなぜでしょうか?

この問いのヒントになるのが、アドラー心理学の「ライフ・タスク(人生の課題)」の考え方です。

アドラー心理学では、「人間の共同体(社会)では、各個人に以下3つの基本的課題を課すと」考える。

1.仕事のタスク
「地球の自然がもたらす限界の内で生存できる職業をいかにに見つけるか」

2.友情のタスク
「協力しあう仲間たち(所属)の中に、いかに居場所を見つけることができるか」

3.愛・結婚・親密さのタスク
「私たちが2つの生を生きていること、そして、人類存続は私たちの愛の生活に依拠していること、この2つの事実に対していかに自分自身を適応させるか」

『初めてのアドラー心理学』 アン・フーバー著 一光社より引用

アドラーは、上記3つのタスクをまとめて「ライフ・タスク(人生の課題)」と定義しました。

人は、仕事のことで悩み、友情や所属など人間関係のことで悩み、愛や結婚・子育てのことで悩む。

ライフ・タスク(人生の課題)とは、人が悩みを抱える物事をまとめたもの。

大正時代の人々も、平成時代の私たちも、そして未来の時代の人々も、人間はライフ・タスクのことで、悩み事を抱える存在なのではないでしょうか。

「悩み」と「課題」の違い

アドラーは、人生で抱える悩み事を、「ライフ・トラブル(悩み)」ではなく、 ライフ・タスク(課題)」と表現しました。

なぜ、「トラブル(悩み)」ではなく「タスク(課題)」と表現をしたのでしょうか?

「悩み」と「課題」の違いは、どこにあるのでしょうか?

悩みとは

・思いわずらうこと。心の苦しみ


課題とは

・与える、または、与えられる問題や主題

アドラーは、人生で抱える悩み事とは自分に与えられた問題や主題であると考えたから、「悩み」ではなく「課題」という言葉を使ったのではないでしょうか。

そして、人は自らの「ライフ・タスク」と向き合うことが重要であるから、その課題に向き合うために「勇気づけ」が必要であるとも考えたのだと、私は思います。

大正時代の記者のアドバイス

『大正時代の身の上相談』には、相談者の相談のあとに、記者のアドバイスが書かれています。

そのアドバイスも以下にご紹介します。

「記憶力も思考も弱い」人への記者のアドバイス

人の一生では、成功するかどうかは問うべきことではありません。

自分の価値で正しく生活していけば良いのです。

あなたもあまり脇目を振らず足元を見つめてお進みなさい。

そうすれば人の評価にも次第に動かされなくなります。

記憶力や思考力は、一朝にして増すものではありませんから、冷水摩擦を続けて、なるべく頭寒足熱をお図りになったらよろしいでしょう。(※1)


「ダイエットをしたい」人への記者のアドバイス

若いご婦人で、肥満して困るという嘆きをおもらしになるのを随分と伺います。

ですが、あなたのように悲観しきっていらっしゃる方は、まぁ、珍しいと申してもいいでしょう。

若いご婦人がお太りになるのは、ある程度まで生理上自然な現象で、肥満上でもなんでもないのですし、あなたぐらいのお年頃は時期としてもお太りになってよろしいのです。

太り過ぎとおっしゃるのは、あなた自身で誇張して考えていらっしゃるのではありませんか。

第3者から申しますと、概して痩せたご婦人よりは、お太りになっている方の方が、ずっと立派に見えるものです。

痩せる薬だの痩せる方法だのと余計な気苦労なさらなくても、よろしいかと思います。

しかし、肥満にも程度のあることですから、この上のことは医者でなくてはお答えができません。

過度の肥満は返すと食物から来ることが多く、内蔵を害して、重い病気のもとにもなりますが、若い婦人のお肥えになるのは多くの場合心配には及ばないでしょう。

それとも、あまり気になるようなら、とにかく医者にご相談なさい。

人は容貌よりも心の美しいのが良いのです。

醜いなどと悲観するものではありません。(※1)


「今の仕事がつまらないから転職したい」への記者のアドバイス

平記者にはやっと休息する時間があるばかりで、勉強時間があるというのは見当違いです。

日によると昼夜兼務で寝る暇もありません。

行く末はどうなることかという感慨は、何業も大抵同じです。

要するに、大磐石の上に座ったような気持ちで生きるのは、職業の別よりも、心持ちの別です。

現在の位置で、苦心することも必要だと思います。

あなたの給料は標準から見れば安くありません。

その境遇を善用されることを。(※1)


瞑想して精神を鍛えたい人」への記者のアドバイス

気の弱い人や、過激に頭を悩みに使う人に対して、神経衰弱症はいつでも襲いかかろうとしています。

なのにあなたのように、平然として自分はあまり男らしくない方面を、何か特色のように誇張して考えるのは青年の現代病の1つだと思われます。

今頃の時候では、それでなくとも気分の優れない日が続くものです。

静座法も催眠療法もうまくいけば有効だと思いますが、それよりはまず、他人を頼ることばかり妄想しないで、もっと男らしく、自分の力を精一杯出して、運動でもしてごらんなさい。

朝も早起きして冷水摩擦をするとか、夜遊びを慎むようになさい。

生涯の大切な時期ですから、くよくよしていてはいけません。(※1)


「禁煙をしたい」人への記者のアドバイス

近頃では、酒や煙草が嫌いになる薬もあるようですが、はたして効能があるかどうかはわかりません。

こういうことは何よりも決心が大切です。

本当にたばこをやめようと思うのなら多大な苦痛をしのばずして、そうそう簡単に、やめられるものではありません。

多年の悪習慣を打破するのですから、非常な覚悟を要することです。

売薬などで抑えても、すぐにまた吸いたくなりましょう。

くれぐれも煙草の害を自覚して、心から禁煙されることを望みます。

(※1)『大正時代の身の上相談』 カタログハウス著 より引用

当時の新聞記者のアドバイスは、かなり的確で現代の私たちの心にも響くものですね。

文明文化が変われども、人間が抱える「ライフ・タスク」が常に一緒だから、当時のアドバイスであっても今の私たちの心にも響く。

紀元前500年の孔子(こうし)が問うた「論語」が、いまの時代の私たちの心に染み入るのも、やはり人間の「ライフ・タスク」が変わっていないからだと、私は思います。

なぜ、人は「ライフ・タスク」のことで悩むのか?

「文明文化が変われども、人は「ライフ・タスク」のことで悩み続ける」と仮定すると、人はなぜ「ライフ・タスク」のことで悩み続けるのか?という問いがうまれます。

みなさんは、なぜだと思いますか?

ここからは、人それぞれ考えが異なってくると思いますが、私は以下のように考えています。

「人は、自分のライフ・タスクに向き合い問い続けることで、はじめて、自分の心を知ることができる。」

逆に捉えると、

「自分の心を知るためには、自分のライフ・タスクに向き合い問い続けるしかない」

自分の人生にまつわる「ライフ・タスク」とは、『人間が人間であるために、問い続けなければならない不変的なもの』

だからこそ、私たちはいつの時代も「悩み事」を抱え続けるのだと、私は思います。

最後に、ヴィクトール・E・フランクルの言葉をご紹介します。

生きることの意味を問うことをやめ、私たち自身が問いの前に立っていることを思い知るべきなのだ。

生きる事は日々 、そして時々刻々 、問いかけてくる。

私たちは、その問いに答えを迫られている。

考え込んだり言辞を弄することによってではなく、ひとえに行動によって、適切な態度によって、正しい答えは出される。

生きるとはつまり、生きることの問いに正しく答える義務、生きることが各人に課す課題を果たす義務、時々刻々刻々の要請を満たす義務を引き受けることにほかならない。

ヴィクトール・E・フランクル「夜と霧」より引

まとめ

今回ご紹介した大正時代のお悩みはどれも「関東大震災」が発生する前に新聞に投稿されたものでした。

その後、大正12年(1915年)に「関東大震災」が発生し、1929年には世界恐慌、1939年には第2次世界大戦へと、社会は大戦の時代へと進んでいきます。

その激動の社会変化のなかで悩みを抱えた人々はどうなったのだろう?

適切なアドバイスをされていた新聞記者の方はどうしたのだろう?

と思いをはせるのですが、その答えは見つかるわけもありません。

大正時代の人々と同じように、今の時代がこれからどのように変化していくのか、現時点で私たちは知る由もありません。

でも、大正時代の人々と同じように、私たちは誰もが「ライフ・タスク」を抱えながら、今を生きていると思います。

もちろん、私もそのうちの1人です。

フランクルが言った「生きるとはつまり、生きることの問いに正しく答える義務、生きることが各人に課す課題を果たす義務」であるならば、いまの自分に与えられた「課題」に意識を向けて、問い続けていくことが重要なのだと、私は思います。

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